千葉・長生 冬、社寺林
千葉県の森林率は、全国で2番目に低い30.1%。森林の多くは房総丘陵と呼ばれる半島中南部に分布しており、県北部では とくに森林のイメージは強くありません。長生(ちょうせい)は千葉県の地域名(村名でもあるが広くは郡名)で、房総丘陵の北端付近。そこに点在する社寺林を巡ってみました。
JR茂原駅がスタート地点。長生郡は茂原市を取り囲む 5町1村から構成されますが、面積327平方kmの中の最高標高はわずか180m。海に近くて最高標高10m程度 の2町村を除いた4つの町(長柄・長南・睦沢・一宮)を周ります。
笠森寺(長南町)
笠森寺は、隣接する笠森稲荷とともに長く信仰の対象となってきました。その創建は784(延暦3)年に遡ります。境内の暖帯性常緑広葉樹林は長く禁伐とされ、現在は国の天然記念物に指定されています。
参道は、入口すぐから大径木に囲まれていて気分が上がります。
スギ。
ヒノキ、カヤ。
クロガネモチ。
ヤブニッケイ、タブノキ。
クスノキ。子宝楠と称される直径2mに達する大径木。
こちらは三本杉。直径1mを超える3本。歴史を感じます。
イロハモミジ。
いったん森を出ると、平安期の十一面観音を本尊とする笠森寺。断崖上に建つ本堂は、1028(長元元)年に後一条天皇の勅願により建立されたのだそうです。
登ってみると、なだらかな房総丘陵が望めました。
お寺の裏に続く歩道へ。静かです。
この森の優占種 、スダジイ 。
アラカシ。
ウラジロガシ、イチイガシ。
生り年ではなかったようで、一部を除き堅果はあまり目立ちませんでした。
尾根上を歩きます。
ネズミモチ、モチノキ。
クロガネモチ。
カクレミノ。
標高80mの小さな頂。まぶしい緑。
コナラ、ヤマザクラ。
ミヤマイボタ。
サカキ、ヒサカキ。
アオキ、アリドオシ。
イズセンリョウ。
ヤツデ、キヅタ。
林外に出ました。アズマネザサ。
カラスウリ、ムベ。
1時間ほどで一周しました。気温が上がり、歩くのが心地よいです。
権現森(長柄町)
いったん北上して長柄町へ。
陽がふりそそぐ神社の参道をたどって、丘陵の小さな頂を目指します。
入口付近は人工林。
参道にひときわ大径なタブノキ。
周囲はタブノキが優占する森になっていました。長く社叢として保護されてきたのでしょう、すばらしい。
シロダモ。
スダジイ。
カヤ。
参道は途中から階段になっていました。比高20mほどを登ります。
斜面には落葉広葉樹が目立ちました。ムクノキ?
すっかり葉がなかったのですが、落ち葉をみるとケヤキやエノキもあるようです。
ミズキ。
ヒサカキ、イズセンリョウ。
アオキ、フユイチゴ。
イヌビワ、イタビカズラ。
アキグミ。
なだらかな頂上に到達。今日の最高標高点、173m。
地図上の記載は「権現森」ですが、看板には「武峯」との名も。日本武尊が兵を休めたという伝説があるのだそう。かつては見晴らしがよかったようですが、いまは木に囲まれて静かでした。
妙楽寺(睦沢町)
南下して睦沢町へ。平安時代に建立されたとされる妙楽寺と、隣接する日吉神社の社叢は「ふるさとの森」として散策路が整備されています。
一歩入ると奥深さが感じられる森。
スダジイ 。この森でも主役。
アカガシ。
クスノキ、ヤブニッケイ、カゴノキ。
ユズリハ、ヤマモモ。
サカキ、ヤブツバキ。
ネズミモチ、クロガネモチ。
ケヤキ、ヤマモミジ。
ツツジ、カクレミノ。
イタビカズラ、マメヅタ。
本堂前のイチョウ。
林内は鬱蒼としていたものの、外に出れば青空でした。
軍荼利山(一宮町)
最後は一宮町。九十九里浜の南端にあたる海岸から1kmほど内陸。鳥居があり「軍荼利山」の扁額があるものの、その奥はお寺。「軍荼利(ぐんだり) 明王」が祀られていることが山名になっています。
ネコがのどかにお出迎え。
参道は急登。
イチョウ、スギ。
イヌマキ。耐潮性があり九十九里ではよく生垣に使われます。
カヤ。平安末期か鎌倉書記に遡るこの寺の本尊、軍荼利明王立像はこの木の一木造りだそう。
東浪見(とらみ)寺。本堂を取り囲む森は、黒潮の影響を受けた温暖な気候を反映した植生です。
スダジイが優占。大径木がありました。
狭いながらも見事なスダジイ林。
アカガシ。
マテバシイ。
クスノキ。
シロダモ、タブノキ。
カゴノキ。
ヤマモモ。
本堂の脇から登ると山頂に行けました。標高70m。
イズセンリョウ、アオキ。
サザンカ、アリドオシ。
トベラ、ヤツデ。
イヌビワ、カクレミノ。
ヤマアジサイ、ムラサキシキブ。
シュロ。
フウトウカズラ。
林床にはシダも豊富。ホソバカナワラビ。草本では、サクラソウ科で絶滅危惧種のハイハマボッスが生育しているのだそうです。
帰り道、イヌマキの生垣がありました。
人の身近にありながら自然の姿をとどめる森。それぞれの個性と歴史をたのしみました。
